あの頃映画サントラシリーズ 八つ墓村

音楽

2022-02-27

1977年の映画「八つ墓村」のサウンドトラック。作曲は芥川也寸志。これは名作ですねえ。作品の世界を見事に音楽化していると思います。

30曲以上収録されているが、前半の27曲が実際に映画で使用されたもので、後半の曲は少しバージョンが違う。民謡調ののどかな音楽と、緊迫感に満ちたおどろおどろしい音楽がだいたい交互に収録されていて、のどかな日本の農村風景とそこに巣食う恐怖と怪奇、陰惨さが複合された感じになっている。

芥川也寸志さんはこのサントラをつくるにあたって野村芳太郎監督に「この場面ではどんな音楽をつくればいいですか?」と訊いて監督を驚かせたという。野村監督としては最初に音楽をつくってもらい、後はこちらで適当に場面に合わせて抜き出そうと思っていたので、場面ごとに音楽をつくろうとは思わなかったとか。

ジョン・ウィリアムズも「スターウォーズ」や「インディ・ジョーンズ」でやはり場面ごとに音楽をつくっているけど、これはミュージカルやオペラの影響なのだろうか。007シリーズの音楽でも例えば「ドクター・ノオ」では、ジェームズ・ボンドが毒グモをたたき殺すシーンでは打撃音がボンドの腕の動きに合わせて入っている。

日本では俳優の動きやシーンの移り変わりに合わせて音楽をつくるということはあまりなかったのだろうか。芥川さんは「八つ墓村」でそれに挑戦したのだろう。

特にピッタリ場面に合わせてつくってあるのが「久野医師の死」で、洞窟の中で寺田辰弥と金田一耕助が、前方からくる明かりに身構えるシーン。低音の反復がクレッシェンドで、何かが近づいてくる恐怖感がグーッと高まっていく。

こういう反復メロディーは芥川さんの師匠の伊福部昭が得意としたところで、芥川さんも「八つ墓村」で効果的に使っている。「三十二人殺し」の強烈なリズムもやはり伊福部昭の影響がうかがえますね。

犯人の正体が明らかになる「夜叉」も、辰弥が犯人の指を見て驚愕する動作にピッタリ合わせてある。こういう試みも当時の日本映画にはめずらしかったのでしょうか。

「青い鬼火の淵(道行のテーマ)」は、この映画のロマンティックな面を表現してますが、それこそ愛のテーマというか、重厚で柔らかな音楽がめくるめくように続いて行って、ここもなかなか聞きごたえがあります。予告編ではここの収録風景が出てきますね。

芥川也寸志は他にすぐれた映画音楽・ドラマ用音楽を数多く作曲しているけれど、私はやはりこの「八つ墓村」が最高傑作ではないかと思います。場面を意識してそれに合わせて音楽をつくるという試みは、たぶんそれまでほとんどなかったのではないでしょうか。

伊丹万作は「映画の場面ごとに音楽をつくれる作曲家がいない」と嘆いていたけど、もし芥川也寸志さんを知っていたらどう思ったろうか。彼こそ最適の作曲家だと思ったのではないでしょうか。