『獄門島』

映画

2022-02-27

1977年の東宝作品。監督は市川崑。出演は石坂浩二、大原麗子、佐分利信、太地喜和子、加藤武、浅野ゆう子、上条恒彦、池田秀一、東野英治郎ほか。市川崑の金田一ものはこれが三作目で、市川としてはこれで金田一シリーズは最後のつもりだったらしい。

〈以下ネタバレあり〉

金田一が親友の頼みで訪れた瀬戸内の小島・獄門島。ここで島の網元・鬼頭家の三人の娘たちが次々に奇怪な殺され方をしていくが、三人という対称形の数字、俳句の見立て殺人と、原作からしてかなり人工的な感じのする話で、推理小説の知的ゲームとしての側面が強い作品だと思う。

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釣鐘トリックは世界的にも評価されているみたいですが、沖合から漁師が崖の上に二つの釣り鐘があるのを見たというのは、致命的なミスという気もする。犯人はなぜ釣り鐘を森の中に隠さなかったのだろうか。

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早苗と鬼頭一(ひとし)の実母が女中の勝野(司葉子)で、娘たちのうちあとの二人を殺したのが勝野だという、映画での改変はどうなのか。いくらなんでもやりすぎではないでしょうか。勝野が犯人だとするとその動機は実子の一に跡を継がせるためとなり、動機としては自然ですが。

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でも、勝野をクローズアップしてお涙ちょうだいのおセンチな話を挿入したりしたので、作品の性格が大きく変わっている気がする。他国者に冷たい日本社会の閉鎖性を強調したかったのでしょうか。けれども、それはすでに「砂の器」でやっていることなので、この「獄門島」はいかにも二番煎じという感じで、しかも中途半端ですね。

原作の犯人性のポイントは、寺・村長・医者という村社会の有力者が、村の最高実力者の意向に従って、跡目争いを解決するため殺人を犯す、というもので、了然和尚(佐分利信)・荒木村長(稲葉義男)・漢方医幸庵(松村達雄)というのはある意味セットになっている。それを変えるのはやはり作品の本質を損なっていると思うのだが。

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ヒロインの鬼頭早苗を演じる大原麗子さん。当時人気絶頂の女優さんでした。

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金田一とはお互い淡い恋愛感情を抱く、という演出だったそうだが、ほんのりしすぎてちょっとわかりにくかったような。

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映画のラストで早苗が泣きながら釣り鐘を思い切りぶったたき、その傍で、寺を継いだ了沢(池田秀一)が静かに鐘の音を聞いている。過去との決別を象徴しているのでしょうか。

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了沢役の池田秀一さんが出てきたとき、親から「この人がシャアの声の人だよ」と教えられた思い出があります。

鬼頭家のドアホな三人娘。今からするとどこかから苦情が来そうな演出ですが。しかし原作でも「美しいが○○で…」と書いてますからね。横溝はこういう女性が好きだったようで、「本陣殺人事件」でも出てきますね。

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雪枝の葬式でも月代はバカ丸出し。そういう演出が徹底していて、演じる浅野ゆう子さんはなかなか気合が入っておられたと思います。

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逆さ吊りになる花子(一ノ瀬康子)。これも有名なシーンだけど、映像化のたびに演じる女優さんは大変だと思う。休憩をはさみながら撮影しないと危険ですね。見立て殺人がこの話の醍醐味だから、ここは変えるわけにはいかないし。

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残虐なシーンだけど、奇妙な美しさがある。そういう演出は市川監督は本当にうまいと思う。

鵜飼章三(ピーター)。ドラマ版の「三つ首塔」でもなかなかの怪演でしたが、「獄門島」の鵜飼もピッタリはまっていると思う。なんだか大正時代みたいな姿格好。

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事件の首謀者・鬼頭嘉右衛門(東野英治郎)。これを超える嘉右衛門役はいないような。水戸黄門の柔和なイメージのおじいさんがド迫力の網元を演じるので、強烈な印象がありました。

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島の描写も凝りに凝っていて、ちょっとくどい気がするぐらい。こういうシーンはわざわざ雲と夕日が山際のちょうど真ん中に来るようにタイミングを待ったのだろうか。相当なこだわりようという気がする。

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こういう明朝体の活字テロップを入れるのもこれまでの金田一シリーズではなかったことで、しかも内容が「このへんではどこでも土葬であった」。土葬であることは事件のトリックとは何の関係もないのだが、わざわざ説明を入れて獄門島の土俗性を強調している。

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市川崑は割と同じ役者を起用するが、お小夜の一座で蓄音機を回すおじさん役の人、「女王蜂」でも宿屋で「ねえちゃん、水が風呂だよお」と意味不明なことを言いに来る変な客の役で出てました。

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金田一耕助は村の駐在・清水巡査(上条恒彦)に犯人と間違われて牢屋に入れられてしまうが、そこで朝食を世話してくれる清水巡査の奥さん。宇野喜代子さんという方だそうですが、この人も「女王蜂」では山本巡査の妹役でした。妙に愛嬌のある女優さんですねえ。
※後で調べたら、宇野喜代子さんは女優ではなく、東宝の広報の方だとか。市川監督が口説いて出演させていたそうです。

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しかし、ここは牢屋なのか。駐在所の留置場でしょうが、逮捕令状もないのに駐在の巡査の独断で留置場に拘禁するというのは重大な人権侵害ですが、当時の日本はこんなのいい加減だったんでしょうか。実は今でもあるのかもしれませんが。

金田一と警察関係者が島を離れるシーン。ホッと和むような場面だけど、早苗に振られた金田一はどこ行く当てもなく島を出ていく。そのせいか、心なしか床屋の娘・お七(坂口良子)を見る金田一の表情も、どこか寂しいような。

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またどうでもいいような話だけど、船の上でまた船酔いした磯川警部のために、金田一がトランクの中の薬を探すシーン。ここで映画は終わるのだが、トランクにはいろいろ古風な薬がたくさん詰め込まれていて、金田一耕助が旅から旅へ、いろいろなところを回っている人なのだと思わせる。私がうがち過ぎなのかもしれませんが。

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