横溝正史『百日紅の下にて』

2022-03-11

角川文版『殺人鬼』所収の最後の短編。5人で酒を飲んでいたら、そのうち1人が突然苦しみ出して死亡する。死因は飲んだジンの中に入っていた青酸カリ。さて犯人は、残る4人のうちの誰なのか…というストーリー。

連載されたのが「改造」という有名な雑誌で、かなりお堅い雑誌だったせいか、この『殺人鬼』所収の短編の中では最も本格色が強い。

何人かで仲良く酒を飲んだりケーキを食べたりしていたら、誰かが死んで、その人物の分にだけ毒が入っていた…というのはよくある設定で、エラリー・クイーンとかアガサ・クリスティーを思わせる。戦後精力的に本格推理にチャレンジした当時の横溝ならではの作品だと思う。短編ながらなかなかの力作で、かなりおもしろいとは思うのだが…

〈以下ネタバレあり〉

犯人やトリックに至るまでウィキペディアに暴露されているが、犯人は家の主人の佐伯で、死んだ五味とその隣にいた川地が話の中心であり、残りの2人はつけたりという感じ。そして由美の自殺が動機となっている。

佐伯は川地を殺そうとしており、川地が死ねば自分も死ぬつもりで、2杯のグラスに目印として髪の毛を浮べていた。しかし川地は髪の毛を気持ち悪がってこっそり五味のグラスと替えてしまい、五味は死んでしまう。計画が失敗したことを悟った佐伯は、ただちに自分のグラスのジンを捨てたので、髪の毛入りのグラスが2つあったことがわからなくなってしまった。しかしそれを金田一耕助が綿密な論理で解き明かす。

そうなのかなあ、という気もするが、読んでいて一番疑問に思ったのは、いくら無頼な連中の集まりでも、髪の毛が浮かんだ酒を飲むだろうかということ。

お酒には詳しくないのだけど、ウィスキーとかブランデーならいざ知らず、透明なジンに髪の毛が浮いていたらすぐにわかってしまい、「これ髪の毛浮いてるよ。替えてくれ」となるのでは?

佐伯もそこまでは考えなかった、ということなのだろうが、ストーリーでは実際に川地はグラスをこっそり五味のものと取り換えているので、佐伯の計画は早い話が失敗したことになる。手段として問題があることを作者自身が認めていると読めなくもない。

そこで、由美を犯したのは実は川地ではなく五味であり、佐伯は五味を殺してよかったのだと(ちょっと強引に)結末を持ってきたのかなあ…という風にも考えてしまうのですが。

しかし推理ファンの評価はおおむね高いようで、酒好きだった横溝らしい作品という気もする。私ももう一度読んで金田一の論理を検証してみようかな。