横溝正史シリーズⅠ「本陣殺人事件」

ドラマ

2022-03-12

1977年に放映された古谷一行版の金田一耕助。監督は蔵原惟繕、脚本は安倍徹郎。出演は佐藤慶、荻島真一、淡島千景、西崎みどり、北村英三、真木洋子、内藤武敏など。

力作という感じで、細部に至るまで表現を凝らしていて、映像美はすばらしい。映画並みの豪華なセットで、特に犯行現場となった一柳家の離れには圧倒される。「本陣」の映像化作品の中でも評価も高いようで、とても見応えがありました。

監督の蔵原惟繕は『南極物語』でも有名な人だが、この作品も非常によくできていたと思う。ただほんのいくつか、少し残念なところもありましたが。

終戦後間もない昭和23年の初春、金田一耕助はパトロンの久保銀造の招きで、岡山の旧家・一柳家を訪れた。一柳家では当主の一柳賢蔵(佐藤慶)と、久保の姪・克子(真木洋子)との婚礼が行われていた。

image

賢蔵の妹・鈴子(西崎みどり)の奏でる琴を聴いたのち、新郎新婦は離れの弁柄塗りの間に引き上げる。金田一と久保もそれぞれ寝床に入るが、深夜に突如琴の音が鳴り響き、雪が降り積もった離れに駆け付けると、新郎新婦は惨殺され、庭には凶器の日本刀が突き刺さっていた…というストーリー。

image

〈以下、ネタバレあり〉

佐藤慶の一柳賢蔵はちょっと年を取りすぎていたかな…母親役の淡島千景とはせいぜい姉弟という感じで、少し無理がありました。ただ、賢蔵氏の知的でプライドが高く、実は暴君でもあるという雰囲気はよく出ていましたが。

image

鈴子役の西崎みどりさん。これはピッタリという感じでした。警察が飼い猫の墓を捜査のために暴いたとき、「タマに触らないで!」と叫んでぬいぐるみのネコをひったくるのだが、声もきれいな方で、とてもはまってましたね。

image

初登場の日和警部(長門勇)。以後ほとんどの回で警察関係者として出演するが、次回の「三つ首塔」で岡山県警から警視庁に栄転したり、それがなぜか「悪魔の手毬唄」でまた岡山県警に戻ったりと、実際の警察組織とはかけ離れた設定のようですが。

image

横溝といえば岡山、岡山出身で岡山弁のしゃべれる俳優ということで重用されたんでしょうか。この回ではまだそれほど金田一とは親しくない設定で、古谷一行とのやり取りも少しぎこちないように感じました。

image

県警本部長(菅貫太郎)。菅貫太郎にしては珍しい役柄だと思う。菅さんのエキセントリックな演技はほとんどなく、金田一を好意的に迎える警察のお偉いさんという役で、あまり出番もなかった。次に出演するのは「夜歩く」の古神四方太役で、こちらの方がはまってました。

概ね良かったのですが、ただ一つ残念なのは、賢蔵の叔父の伊兵衛(北村英三)と母の糸子(淡島千景)が不倫関係にあるという、原作にはない設定。このことが犯行動機の一つにもなったとしているようなのだが、どうしてこの不倫が犯行の動機になるのか、見ていていまいちわかりにくかった。

image

賢蔵の父が自殺したのもこの二人の不倫が原因としていたが、原作では隣村の地主と土地の境界争いで切り合ったせいだとしている。この激昂すると何をしでかすかわからない性格が賢蔵にも遺伝しており、事件につながるのだが、監督や脚本家は、そういう遺伝的な背景による動機はテレビ放映にはふさわしくないと考えたのだろうか。

image

密室トリックを検証するシーン。しかしわざわざ雨の降る中で実験するのはどうなんでしょう。犯行当日の雪とも条件が違うし。ちょっと演出の意図がわからない。

ただ、凶器の日本刀が部屋の欄間を通り抜けていく場面は、見ていて違和感もなかった。実際にそんなことが可能なのかと思うのだが、このテレビドラマではうまく撮影して視聴者を納得させていた。

清水京吉が一柳家への道筋を尋ねたのはなぜか?という説明がなかったが、これは放映時間の関係で最初からカットされたのだろうか。推理ドラマとしてはこういう説明は省いてほしくなかったですが。

しかし全体としてはやはりよくできていると思う。映像としての美しさ、俳優たちの演技の迫力という点では、なかなか他にない「本陣」ではないでしょうか。1983年版のテレビドラマでも脚本はほぼ踏襲されているが、映像美や演技力はこちらの方が上でしょう。