横溝正史シリーズⅡ「八つ墓村」

ドラマ

2022-05-09

1978年放送の古谷一行版。これはシリーズ中もっとも出来が悪い作品かな…

闇市で商売をしていた寺田辰弥(荻島真一)が行きつけの食堂で、食堂の主人(梅津栄)から自分が尋ね人になっていることを知らされる。そこで自分を探しているという諏訪弁護士(内田朝雄)の元を訪れると、諏訪弁護士から自分の祖父だという井川丑松(北村英三)と引き合わされる。

ところが丑松はロクに話もしないうちに血を吐いて死んでしまい、辰弥は警察に怪しまれて連行されてしまう。辰弥の危地から救ったのは森美也子(鰐淵晴子)という女性だった。美也子は辰弥が岡山の資産家・田治見家の跡取りであり、自分は田治見家の親戚だと警察に証言して、辰弥を釈放させる。

莫大な財産の相続人と聞いて内心嬉しくなる辰弥だが、一方で辰弥をこっそりつけ回す謎の人物にも気づいていた。その男はフロックコートと帽子で素顔を隠し、辰弥が正体を探ろうとすると素早く身を隠してしまう。さらに金田一耕助(古谷一行)という不思議な男も現れ、いつの間にか辰弥と美也子の後を追って、田治見家のある八つ墓村へとやって来る。

八つ墓村で村人たちの冷たい視線にさらされながら、辰弥は腹違いの兄・久弥(中村敦夫)と姉・春代(松尾嘉代)と対面する。そして大叔母の小竹(毛利菊枝)・小梅(新海なつ)姉妹。

辰弥は親戚の里村慎太郎(草薙幸次郎)にも紹介されるが、慎太郎は元軍人と言いながら今は特にすることもなくブラブラしているという。久弥は重病で明日をも知れぬ命。春代は出戻りで子供を産めない身体であり、辰弥が継がなければ田治見家の財産は慎太郎が相続するというのだが、小竹・小梅は慎太郎を嫌っていた。久弥が吐血して死ぬと辰弥は、丑松・久弥を殺したのは慎太郎ではないかと疑うが…

〈ネタバレ・感想〉

辰弥が荻島真一というのはなかなかいいキャストだと思いました。原作でも辰弥は(なぜか意味もなく)女性にモテモテというキャラクターで、特に中年女性に人気だった荻島さんはピッタリだと思う。母性本能を刺激するキャラというのだろうか(今はこういう言い方もしなくなったようだけど)。

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ストーリーも前半の3話目ぐらいまでは割と原作を忠実に追っているが、ロケのスケジュール上の都合からか季節を冬にしていて、鍾乳洞のひんやりした雰囲気がいまいち伝わってこない。

まためずらしく里村慎太郎を映像化しているが、ただ登場させただけで、少し犯人と匂わせて後は簡単に殺されるだけの設定にしてしまっている。何のために全5回もやったんでしょうか。

おまけに、原作では森美也子の単独犯となっていたのを諏訪弁護士との共犯とし、その動機も、原作では美也子の慎太郎への恋心としていたのに、このドラマでは田治見家への怨恨へと変えているが、こういう変更の意図が全然わからない。野村芳太郎の映画版の印象が強烈だったのでそれとの差別化をはかったのかもしれないが、怨恨というサスペンスドラマにありがちな動機にしたことで、かえってドラマの印象が薄くなってしまっている。

それに美也子役の鰐淵晴子の演技がひどい。セリフ棒読みで何を言っているのか聞き取りにくいし、表情もワンパターンで、辰弥とのラブシーンもまるで気合が入っていないようでした。小川真由美の熱演とは比べ物になりませんね。

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顔もねえ…単なるハーフという感じで、いかにもドイツ人という容姿だが、ただそれだけ。原作の都会的で勝気な美人というイメージとは程遠い。キャストもハーフだったら何でもいいのかい、と思いますよ。

原作通りに尼子の埋蔵金を発見する辰弥。いっしょに発見する女性は原作では里村典子だが、典子は一度も映像化されたことがないのでは。しかもこのドラマでは辰弥は埋蔵金・八つ墓村とまるごと水没するのだが、なぜこんな悲しい結末にしたのだか。辰弥の母・鶴子が埋蔵金の在りかを教えたことが仇になってしまってるやん。

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このド近眼の眼鏡をかけた諏訪弁護士。金田一耕助はどういう推理で諏訪が犯人だと断定したのか、その詳しい説明もほとんどなかった。久野医師(永井智雄)が無免許医という設定も意味がわからなかった。単なるはやらない医者でよかったと思いますけどね。

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松尾嘉代の春代はまあよかったのかなあ…原作の病弱な感じはあまりありませんでしたが。

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全体に消化不良気味で、ダラダラやった割にはきちんとした結末になっていない感じ。構成で失敗したのだろう。映画版に押されて、ドラマとしての方向性が中途半端になってしまったのか。とにかくいろいろな点で残念な作品でした。