稲田雅洋『自由民権運動の系譜』

2022-10-12

自由民権運動の背景と経過、その成果と影響が1冊にコンパクトにまとまっていて、とても読みやすかった。自由民権運動についてあまり知らない人にとってはいい入門書だと思う。

著者の稲田氏は一橋大学社会学部のご出身で、東京外大名誉教授。近現代史がご専門だが、学位は社会学でとっておられる。一橋大は福田徳三以来、経済史の実績が名高いが、阿部謹也という社会史の巨人もいる。ただ、この稲田氏の本は純然たる近現代史という感じでした。

江戸幕府にも議会政治を唱えた幕臣は何人かいたのだが、上司に叱責されて左遷されてしまう。もうここらへんで勝負ありという感じで、あとは幕府は崩壊の一途をたどる。

しかし明治新政府も似たり寄ったりで、薩長の西郷や大久保が新政府をつくったとき、福沢諭吉や西周は、「無知で粗暴」な薩長土肥の志士たちが政権をとったことで、かえって議会政治は遠のくだろうと予想する。予想は的中で、新政府は大久保・西郷・木戸・板垣・大隈らの政権抗争に明け暮れ、その中から大久保が台頭してくる。

敗れた板垣らは下野して「自由党」という日本初の近代政党をつくるのだが、大臣職を提示されるとあっさりと自分の作った政党を見捨てて入閣してしまう。しばらくこんなことのくり返しで、今の野党の分裂抗争とあまり変わりませんねえ。

稲田先生は「雄弁家」の登場こそ議会政治の契機で、弁論で大衆を動かす時代が到来したと力点を置いておられるのだが、それはつまるところ、「沈黙は金」という日本の伝統(ドイツでもそうらしいですが)とは真っ向反する部類の政治家が登場したことになる。

おかげで聴衆や後援会を相手にペラペラリップサービスをした挙句、森喜朗氏のように舌禍をくり返す政治家たちが権力を握るようになったわけで、これも民主議会政治の不可避の帰結なのだろうか?

ともあれ、読みやすくてとてもおもしろかったし、いろいろと勉強になった。あとがきで稲田先生はご自身の病気にも触れておられたが、大丈夫だったんでしょうか。