筒井清忠『帝都復興の時代 関東大震災以後』

2022-10-03

筒井教授の比較的最近の著書かな?。なかなかおもしろかったですが、東日本大震災後の復興の議論を受けて書かれた論文をまとめたものらしい。それだけに「アクチュアル」?な本なのだが、震災から10年もたつとそれもさすがに薄れてきた気がする。「震災復興」なんて今は何をしてるんでしょうか。

序文で筒井教授は「近現代史を専攻する私からすると」というような書き方をしていて、近現代史の先生だったんですかねえ…? いやまあ確かに近現代史の方ですが、私などはずっと歴史社会学の先生だと思っていたのだが。歴史社会学と近現代史はかぶるところも多いですが。

第1章の「関東大震災後の政治と後藤新平・復興院の挫折」と第2章「復興局疑獄事件とは何か―『伏魔殿』と化した復興官庁」は、政治史という感じで、後藤新平なんてたいした政治家じゃない、後藤にならって「復興庁」なんてものをつくってもロクなことにはならない、というのが結論。

それはさておき、正直なところ、第1章はかなり読みにくかった。後藤新平だけでなく大正期の政治史の流れを知っていないとついていけないような細かな説明が続いて、とにかく後藤の政治生命は当時すでに終わっていたらしい。

第2章の資料は新聞記事に統一されていたので、理解しやすかった。特に「神道明照法」なる怪しげな新興宗教が官吏たちに広まっていたというあたりがおもしろかったが、新聞記事にどれだけ正確性があるのかという気もする。その点は資料的制約というやつで、裁判記録でも残ってない限り、数十年前の刑事事件をたどるのは非常に難しいことですが。

読み応えがあったのは第3章「『天譴論』から『享楽化』・『大衆化』へ―関東大震災後の社会意識の変化」で、この論考は社会学的に当時の世相や人々の心理に迫っていて、歴史社会学者・筒井清忠教授の面目躍如という感がある。資料的に夢野久作のルポに頼りすぎている感じもしてしまうが、大震災後の退廃的な世相から、その反動としての昭和の超国家主義という図式は明快だった。

ただここもケチをつけると、東京の世相を全国に当てはめることはできるのだろうか?という気もする。関東地方の世論というのは全国レベルでも大きなウェイトを占めていたのだろうけど。

まあしかし、やっぱり筒井先生は社会学で論じた方が鋭いというか、切れていると思う。先生ご自身がこの本では「歴史社会学」に言及されていないのは、少し残念な気もしてしまうのだが…