横溝正史『仮面舞踏会』

2022-09-04

う~ん、これはどうなんでしょうか…

横溝の昭和30年代の作品で、本格推理の執筆が中断に入る直前のもの。この作品以後、横溝は社会派推理の台頭に押されて一時期忘れられていくのだが、この『仮面舞踏会』を読んでいても「さもありなん」と思ってしまう。

第一、文章が長くてくどい。軽井沢の自然や風景を延々と描写していてつまらない。おどろおどろしい旧家とか伝説とかが出てくるわけでもないので、八つ墓村や獄門島のイメージで読み始めると肩透かしを食うだろう。

それとこの作品の焦点はどこにあるのだが。主人公は飛鳥忠煕なのだろうけど、それほど魅力のない人物。考古学ファンの大実業家で、旧華族で、という設定なのだが、それが何?という感じがしてしまう。

犯人は笛小路美沙だが、祖母の笛小路篤子も重要な役割を演じている。それはともかく、美沙の正体が表れたときの「悪魔的」な描写。目撃者の藤村夏江が思い出すのもゾッとするような恐ろしい表情になるのだが、強いて言えばここだけ「おどろおどろしい」。

トリックや推理はなかなか凝ったものだが、まわりくどくてわかりにくいという気もする。それに藤村夏江の証言がほとんど鍵と言っていいので、笛小路泰久が変死したとき、当時の捜査陣が夏江の供述をとっていればそれで万事解決だったのでは?

他の作品と比較すると、昭和30年代の横溝は女子学生が犯人だったり、事件の重要人物という作品をいくつか書いている。『白と黒』や『悪魔の降誕祭』、『夜の黒豹』などで、いずれもその女子学生は表面上はいい子ぶってても中身は悪魔的な不良少女で、大人顔負けのとんでもないことをやらかしている。当時はこういう不良少女の非行が世間を騒がせていたんでしょうか。

それはさておき、おそらく横溝本人も書いていて嫌になったのか、この『仮面舞踏会』は長い中断に入ってしまう。横溝ブームが来てから再び執筆して完結するのだが、横溝ファンならいざ知らず、本格推理として客観的な見た場合は、傑作とは言い難いでしょうね。

横溝正史の魅力はやっぱり「岡山もの」だと実感した。今『獄門島』を読み返すと、こっちの方が断然面白いですね。

横溝正史シリーズで金田一耕助を演じた古谷一行さんが亡くなられたそうで、長く闘病しておられるとは聞いていたのだが、まことに残念なことです。