横溝正史『恐ろしき四月馬鹿 横溝正史ミステリ短編コレクション1』

2022-01-22

柏書房から出されている横溝正史の短編全集の第1巻。デビュー作『恐ろしき四月馬鹿』から昭和初期までの短編集を網羅している。

言ってしまうと、横溝正史の熱狂的ファンなら読んでも損はないが、そうでなければあまりおもしろくないと思う。

全体に何だか薄味というか、「もうひとひねり」欲しいところだなあ、と思ってしまう。『恐ろしき四月馬鹿』はデビュー作としては上出来なのだろうが、後はどれもこれもトリックが単純でストーリーも何だか貧乏臭いのが多くて、読んでて辛くなるというのか。特に『山名耕作の不思議な生活』とか。

乱歩と同じタイトルで同じテーマに挑戦した『双生児』も、乱歩に比べると全然というか。何だか今一つ肩透かしを食ったような結末で、印象が薄い。この頃は乱歩の方が圧倒的に人気作家だが、それも頷ける。乱歩の方が論理的にはるかに練れている感じで、ひらめきを感じるのだが、この頃の横溝にはまだそういうのはないですね。

比較的おもしろかったのは、上京したての横溝を援助するために乱歩の名前で発表した『犯罪を猟る男』で、これはなかなかというトリックだが、それでも乱歩はあまりいい顔はしなかったそうで、確かに乱歩の当時のレベルにはまだ及ばないかな。

しかし、逆に言えば横溝は大器晩成型の人だったのかなと。横溝が本格推理を書き始めたのは40代も半ばになってからで、デビューしてからそれまでゆっくりと進歩していったのだろうと思う。そういう軌跡をうかがえる全集ではありますね。