江戸川乱歩『影男』

2022-02-04

明智小五郎の最後の長編推理。変幻自在の犯罪者・影男の活躍と明智小五郎との対決を描く。

しかし推理小説としてはどうだろうか。何より、これは長編と言うより短編の合作で、一種のオムニバスと言った方がいい。江戸川乱歩は長編は苦手だったのだと改めて感じる。

短い作品だと乱歩のひらめきの鋭さや斬新さに舌を巻くが、長編になると同じような描写がダラダラと続いて退屈になる。『ぺてん師と空気男』でも少しそういうところがあったが、この『影男』でも、パノラマ館の女体の山とか宮殿の情景描写がそれこそ延々と続いて、さすがにダレてしまう。

影男が保護色の衣装を駆使して闇に溶け込み、姿を隠すのは、少年探偵団シリーズの怪人二十面相と同じ発想ですね。こういうところは読んでいて懐かしい。また犯罪のトリックというのは本質的に手品のトリックと同じだと感じる。要は他人をどうやって騙すかで、それ次第で凶悪な殺人も芸術になるのだろう。

にしても、パノラマ館とか子供を使って列車を転覆させるとか、乱歩自身も自作改題で書いているが、以前に書いた作品の焼き直しで、創作力が尽きていることは乱歩もよくよく自覚していた。まあそれでも、「明智小五郎最後の長編本格小説」というだけで、やっぱり読んでおく価値はありますね。

青空文庫でも公開されているが、創元推理文庫版だと、当時の古臭いというか、少々チャチ臭い挿絵と一緒に読むのも一興かなと。昭和二十年代の安っぽい、しかし開放的な雰囲気も味わえる。