横溝正史シリーズⅡ「不死蝶」

ドラマ

2022-02-04

古谷一行のドラマシリーズから。ゲスト女優は竹下景子。監督は森一生。これもなかなかおもしろかったですね。

金田一耕助(古谷一行)は日和警部(長門勇)に懇願されて、信州射水の矢部杢衛(小沢栄太郎)の元へ向かう。射水の駅に着くと突然新聞記者(山本紀彦)の取材を受け、鮎川マリの調査に来たのかどうなのかとしつこく質問される。何のことやら皆目わからず逃げ出すと、鮎川マリはブラジルのコーヒー王の養女で、母親の鮎川君江と一緒に射水を訪問中だとか何とか。

この鮎川君江、町の教会から出てきてもすっぽりベールで全身を覆っていて、見るからに怪しい雰囲気。しかも君江が車に乗り込もうとした瞬間、「おい、お前朋子じゃないか!?」とこれも見るからに胡散臭い男・古林(松山照夫)が声をかける。


image


何が何やらわからず金田一が矢部家へ行くと、そこは林業を営む大邸宅で、その当主・杢衛から「二十年前の、次男の矢部英二が殺された事件を調査してほしい」と頼まれる。

当時、杢衛の長男の矢部慎一郎(山本昌平)は玉造家の朋子と相思相愛の仲だったが、矢部家と玉造家は代々対立しており、杢衛は知人の娘・峯子(岩崎加根子)と慎一郎を結婚させるつもりでいた。しかし慎一郎は朋子と結婚すると言ってきかず、憤慨した弟の英二は、「智子の奴をぶんなぐってやる」と物騒なことを言い、裏山の洞窟を通って朋子に会いに行く。

image

う~ん、ここまで書いていて「なんてややこしい話なんだ!」と思う。とにかく横溝正史大好きの二つの旧家の対立と洞窟、二十年前の事件、いかにも横溝正史だとは思うのだが、このプロローグまででかなりこんがらがってしまう。しかしドラマではこれを上手にまとめてますね。見てるとそれほどこんがりません。

早い話、杢衛は次男の英二を殺したのは玉造朋子であり、今射水に来ているという鮎川君江こそ玉造智子であると主張する。

なぜかというと、洞窟で殺されていた英二は朋子の着物のちぎれた振袖を握りしめており、当時から犯人は朋子と見られていた。朋子は洞窟内の底なし井戸に身を投げて死んだと思われていたが、死体は発見されていない。

image

また、鮎川君江の娘である鮎川マリ(竹下景子)は、若い頃の玉造朋子と生き写しである。だから君江=朋子で、親子してこの射水にやってきて、何か良からぬことを企んでいるに違いないと杢衛は金田一に訴える。鮎川マリは英二の命日にパーティーを催し、矢部家をはじめ射水の主だった名士たちを集めるという。そこで一体何が起こるのか…と話は進んでいく。

image

この複雑な話をドラマ三回分とはいえ、よくまとめたなあと思う。それにとてもいい味を出しているのが矢部慎一郎役の山本昌平さんで、普段は時代劇なんかで凶悪な殺し屋とかの役が多いけど、ここでは財産家の無気力な長男で、日がな一日油絵ばっかり描いているという山本さんには珍しい役をやっておられる。これがとてもはまってますね。

image

アトリエで楽しそうに女性の絵を描いているが、実際に山本さんにはこういう趣味があったのかと思われるぐらいピッタリ来ている。また絵の女性だが、これがみんな鮎川マリにそっくり。ここらへんから二十年前の事件の真相が何となくわかってくるのだが、話の最後はなかなか感動しますね。山本昌平さん、実にいい役者だったと思う。

image

鮎川マリのパーティーのシーンはサンバか何かをピアノの伴奏でやってみせるだけでしょぼいのだが、それ以外のシーンは手堅い演出で、教会や洞窟の雰囲気もなかなかいい。『不死蝶』は横溝作品の中ではそれほど有名ではないけれど、これも横溝のエッセンスがつまったいい作品だと感じました。