横溝正史『霧の山荘』

2022-03-18

昭和33年(1958年)に発表された中編。これもなかなかおもしろかったけど、疑問に思う点も。

犯行動機についてはウィキにも解説があるけれど、横溝正史は法律(というか民法の家族法)にはあまり詳しくなかったのかな。松本清張の『疑惑』も映画版ではなぜ鬼塚熊子が(真相が明らかになっても)相続人になれないのかよくわからなかったけど、推理ドラマでは犯人探しが第一だし。

確か本人(被害者)の甥や姪には相続権があるけど、いとこになるともうなかったと思うけど。遺言で相続人に指名すれば別ですが。しかしそんな些末な事より、本作でなぜ犯人が照子の死体を引きずり回して傷だらけにしたのか、どうにも不可解な気がする。

被害者の(犯罪)計画を知った犯人がこれを利用するというのは『八つ墓村』も同じで、ほかにも似たような作品があった気がする。本作の照子の悪戯が犯罪とまで言えるかどうかはわからないが、照子の性格については再三言及があるので、読者へのヒントはちゃんと提示されているわけですね。

全体としてみるとよくできた本格推理で、割とあっさりした解決だけど、読後感はいい。軽井沢は横溝の好きなところだったようでよく出てくるけれど、舞台が爽やかなせいか、横溝のおどろおどろしいイメージはほとんどない。やっぱりこういうところが関西人というか、横溝正史は意外にあっさり風味の作品が多いという気もする。