イーデン・フィルポッツ『だれがコマドリを殺したのか?』

2022-03-21

マイラとダイアナという美しい姉妹が登場し、姉のマイラはあだ名がミソサザイ、妹のダイアナはコマドリと言った。マイラは金持ちの貴族ベンジャミン卿、ダイアナは医者のノートンと結婚するが、マイラは足を骨折して家に引きこもりがちになる。

ダイアナは頻繁にマイラの元を訪れて姉を励ますが、やがてダイアナも体調を崩し、原因が不明のまま衰弱して死んでしまう。しかしダイアナの殺害容疑が持ち上がり、発掘されたダイアナの遺体からはヒ素が検出される。夫のノートンが妻の殺害容疑で逮捕されるが、ノートンの親友の二コルは、誰がコマドリ(ダイアナ)を殺したのか突き止める。

〈ネタバレ〉

犯人はダイアナで、つまり「コマドリを殺したのはコマドリ自身」と書かれている。

ポイントはマイラとダイアナが姉妹であることで、この二人は外見もよく似ていたが、姉がおとなしくあまり社交的ではないのに対し、妹は活発で勝気な性格だった。

ダイアナは、莫大な財産の相続権を放棄したノートンを憎悪しており、姉に毒を盛って殺し、姉の死体を身代わりに埋葬する。そして姉にすり替わってマイラとして生活していた。マイラは引き籠もりがちで人と会わずにいたのでバレない、という計算である。

〈感想〉

"Who killed Cock Robin?"(誰がコマドリを殺したか)というマザーグースの童謡を元にした推理小説で、マザーグースでは「それは私。とスズメが言った。弓と矢で殺したの」と謡う。しかし本作ではコマドリ自身となっている。

動機については非現実的で、これはいわゆる「本格推理」の弱点といえる。本作も、ダイアナは一種の異常人格者として片づけるしかない。しかし童謡の見立て殺人である点と、犯人が被害者とすり替わるという点で、後の推理小説に大きな影響を与えた作品である。

童謡殺人という点では、ヴァン・ダインの『僧正殺人事件』やクリスティーの『そして誰もいなくなった』、横溝正史の『悪魔の手毬唄』などがあげられるが、すり替わり殺人という点では同じく横溝の『トランプ台上の首』などがあげられる。古畑任三郎でもほぼ同じトリックの回があった。

パズルとしてはおもしろいが、動機は身勝手そのもので、ストーリーに現実味がない。にもかかわらず同工異曲の作品が今に至るまで多いのは、自分とよく似た他人(家族)を利用してのすり替わりトリックが人間の「変身願望」に根差していて、それだけ魅力的なせいでしょう。考えてみれば芸能人や政治家なんかも、駐禁違反や裏口献金なんかで、秘書やマネージャーをよく身代わりにしますしね。