横溝正史『死仮面』

2022-05-29

角川文庫版。中日新聞の「物語」連載時の第4回分は未収録で、代わりに解説の中島河太郎が補筆したものを収録している。しかし読んでみるとそれほど違和感はないような… またいずれ春陽文庫版の横溝オリジナルと比較してみたいが。

発表された1949年(昭和24年)とほぼ同じ1948年の設定で、男女の情交を告白したおどろおどろしい手記から物語は始まるのだが、ここらへんがいかにも横溝らしいというのか。三角ビルにある金田一耕助の事務所の細かい描写もある。ここでの金田一はまだ無名に近い、貧乏な探偵という設定になっている。

父親の違う三人姉妹のドロドロの愛憎劇が話の軸だが、これも横溝のお約束というか。長女の川島夏代の夢遊病というのも横溝得意の設定で、トリックも、架空の人物をつくり上げて犯人に見せかけるという、この時期の横溝がはまっていたものだ。

ストーリーの結末も、少女が莫大な財産を相続するという一種のハッピーエンドで、『女王蜂』や『上海氏の蒐集品』などとよく似ている。

つまりこの『死仮面』は、横溝のよく使う手法や設定をつなぎ合わせたもので、他の作品との差異がいまいち目立たない。それなりにおもしろかったが、真犯人は割と簡単にわかってしまうので、その点が少し物足りない。1986年の古谷一行版のドラマでは、犯人はそのままに動機の設定を変えているが、話としてはドラマの方がおもしろいように思う。

ただ、やはり「本格推理」を志向した作品で、掲載紙にもよるのか、冒頭の手記を除けば、扇情的な描写はあまりない。犯人がなぜ白井澄子の部屋に忍び込んだのか、デスマスクと地下室のコンクリートの関係は、などなど、読者を悩まそうとする仕掛けが随所にある。

推理小説とはやはり「パズル」で、横溝もパズルとしての推理小説を強く意識していたのだと思う。坂口安吾の指摘した「詰将棋のようなおもしろさ」は、この作品でも十分味わえました。