エラリー・クイーン『チャイナ蜜柑の秘密』

2022-06-26

1934年の発表?ですか。原題は"The Chinese Orange Mystery"で、「チャイニーズ・オレンジの秘密」とはしにくいかな。

大金持ちの出版業者で切手の収集家でもあるカークは、ニューヨーク?の高級ホテルの22階に住んでいた。同じフロアには事務所があり、秘書のオズボーンが詰めている。事務所にはカークの父親で言語学者のカーク博士の部屋があり、車椅子生活のカーク博士の付き添い看護婦ディヴァーシー嬢が、気難しくてわがままな博士の世話をしている。カークの妹マーセラとその婚約者マガウワン、カークの出版社の共同経営者バーン、カークと親しく、同じ22階に住む謎の女性アイリーン・ルーイスが主な登場人物。

ある日、22階のカークの事務所に中年の男性が現れる。応対したオズボーンは男性に名前と要件を尋ねるが、男性は頑として答えようとしない。やむなくオズボーンは、男性を事務所の隣の応接室に通す。

数時間後、カークが事務所に現れ、オズボーンは来客だと告げるが、カークはそんな男は知らないという。応接室には内側からかんぬきがかかっており、事務所からは入れなかった。そこで廊下側のドアに回ると、廊下側のドアには鍵がかかっていなかった。

ドアを開けて中に入ると男はすでに死んでいたが、不思議なことに、男の衣服は背広もズボンもなぜか前後が逆になっており、アフリカの原住民の槍が男の背に差し込まれていた。しかも奇妙なことに、応接室の書棚も机のランプもすべて前後、上下が逆になっている。事務室へ通じるドアの左右にあった書棚も移動しており、ドアの左側の書棚はドアと鋭角になるよう配置され、ドアの右側の書棚も奇妙な位置に移動していた。男は事務室側のドアの前に倒れていたのだが…

〈ネタバレ〉

プロットをはしょって書いてみると、いかにも事務室側のドアと書棚が怪しい感じがする。おまけに死体の背に差し込まれていた槍。ドアと書棚、槍を使って密室をつくったのでは?という話。

廊下側のドアからは、カーク、カーク博士、マーセラ、ディヴァーシー嬢、バーン、マガウワンのいずれもが入ることができる。ところが事務室側のドアからは、もしドアが開いていたとすれば、入れるのはオズボーンしかいない。

ではなぜ、オズボーンは被害者の衣服や部屋の家具類を逆さまにしたのか。それは被害者の衣服を逆様にする必要があったからで、被害者の職業を知られたくなかった。被害者はネクタイを締めておらず、被害者の鞄からはパール・バックの『大地』や教会の説教集などが出てくる。ということは、被害者は中国に赴任していた伝道師なのだろう、となるのを恐れたのだった。

〈感想〉

ここまで来ると犯人がアホなのか天才なのか判断がつかなくなる。事件を解決した名探偵にして作家のエラリー・クイーンは、衣服と合わせて家具類を「逆さま」にしたのは天才だというが、それならなぜ、あらかじめ擬装用のネクタイを用意しておかなかったのか。

ドアと書棚の配置、槍は何らかのトリックの小道具だったこと容易に推測できるが、さらに結び目のない紐を使って、この小説にあるような密室トリックを実行できるものなんでしょうか。何でもそうですが、実際にやってみると「悪魔は細部に宿る」で、ちょっとしたことが引っかかってうまく行かないなんてことはザラですからね。

例えば、被害者の遺体が、事務室側ドアの右側の書棚にうまく倒れ込んでくれるかどうか、ちょっとでもずれたら紐が絡まったりしてうまくかんぬきがかからないような気もするのだが。まあ、失敗すればもう一度チャレンジすればいいという気もするが。

まあまあおもしろかったですが、ある意味「べたな」機械的トリックで、そこらへんがどうにも釈然としなかった。クイーンの作品の中ではあまり評価が高くないのも当然かなと思います。