横溝正史シリーズⅠ「三つ首塔」

ドラマ

2024-01-03

TBSの横溝正史シリーズから1977年放送の「三つ首塔」。

ストーリーは佐竹老人という実業家が残した10億の遺産をめぐって次々と殺人事件が起こり、複雑な親戚関係の中で、遺産相続人に指名されたヒロイン・宮本音禰(みやもとおとね)(真野響子)が事件に巻き込まれて散々危険な目に遭うというもの。ドロドロ因縁の血縁一族と美女が相続人というのは横溝大好きの設定で、犬神とか迷宮の扉とかいろいろあります。

ま、横溝の推理作品としてはトリックとか謎解きは他愛のない方で、そもそも連載されていたのも終戦直後に粗製乱造されたエログロ系の探偵雑誌だし、推理というよりサスペンスと言った方がいいんでしょうね。他のブログでも書いてますが、トリックとか推理より人気絶頂期の真野響子さんの美しさの方が際立ってました。

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しかしこのTBSの77年版はドラマとしてはよくできていると思う。監督は出目昌伸で、手堅い手法で定評のある方。敗戦直後の混乱した日本の世相をリアルに描き込んでいる。

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それと豪華な出演者(だと思う)。上杉教授役の佐分利信はいつもながらのド迫力、軽薄な佐竹建彦を演じる米倉斉加年さんも軽妙さとえたいの知れない感じがよく出ていました。それと等々力刑事役の早川保さんもいかにもコワモテのうるさい刑事という感じで、脇のところでいい演技だったと思います。

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高遠五郎の黒沢年男はいまいちだったかな~ 演技に気合が入りすぎでやや空回り気味でした。原作の五郎はもっと野性味のある男だと思うのですが…

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佐竹由香利(大関優子)と鬼頭庄七(小池朝雄)。この二人もいかにもえたいの知れない感じ。これがまた二人でドロドロにエグイストリップショーを見せたりする。由香利に手を出した古坂史郎(ピーター)を草やぶで絞め殺そうとするときの小池さんは本当に狂気の表情で、「僕が演じたいのは結局狂人なんだな」と語った話もさもありなんと思ってしまう。

しかし何と言ってもすごかったのが志賀雷蔵役の小松方正で、メチャクチャに濃い演技で度肝を抜かれました。

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相続人の一人・アクロバットダンサーの根岸姉妹のマネージャーだか何だかだが、終戦直後の闇の世界でうごめいていた悪人の典型ですね。音禰をドサクサに紛れて誘拐する。そして良からぬことをしようとするのだが、その前に飲んだウイスキーで毒殺される。この毒殺シーンが圧巻。

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ズズーッと下品にウイスキーを飲み干す雷蔵。わざわざ白目で上目遣いになるという念の入れよう。「あ~うめえ」などとご満悦なのだが、音禰に迫ろうとして突然苦しみ出す。

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ドドドッと血を吐いて悶絶する雷蔵。音禰は恐怖のあまり半狂乱になって飛び出すが、そこにもまた毒殺死体が。飛び出したアパートの名前は「平和荘」なのだからこれまた念が行っている。

当時のバー&連れ込み宿みたいな店。米兵とイチャイチャするド派手な化粧の女たち。廊下では米兵と日本女性のホステスがあたり構わず〇〇してるし。家族で見るのは恥ずかしいシーンが続きますが、当時の日本てこんなんだったぞ!という容赦のないリアルな演出で、セットや衣装も凝っている。ジョン・ダワーの『敗北を抱きしめて』の世界そのままです。

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変態叔父の佐竹建彦の家を飛び出した音禰は今度は古坂に保護というか拉致される。そして人力車でどこかへ連れていかれるのだが、ここで三味線女の怪しい浪曲?か何かがバックに流れてくる。こういう演出もなかなか良かったですね。

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何ともニヒルというか虚無的な感じの一シーン。敗戦後の虚脱感みたいなものが漂っている。

ヒール役でしたが、当時は大関優子の名前だった佳那晃子さんも美しかったですね。トカゲを焼いて食おうとしていた法然役の殿山泰司さんも毎度おなじみの怪演でした。

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上杉教授と金田一耕助。犯人は見てても割とすぐわかってしまうのだけど、その動機というか心理的背景にいかに迫るかというストーリーだったように思う。

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この回からエンディングは古い日本の街並みになっていた。当時のディスカバー・ジャパンというかアンノン族というか、国内旅行ブームに合わせたんでしょうか。

1977年当時からはもう30年ほども昔の、高度経済成長ですっかり日本社会が変わる前の世の中。その時代へのノスタルジーというか「あの頃はひどい時代だったなあ」みたいな感慨が、ニヒリズムとともに詰め込まれていたと思います。音禰の最後のセリフ「お金なんかどうでもいいの」という言葉にはどういうメッセージが込められているのかな、と思ったり。

三つ首塔【リマスター版】 [DVD]